dialog/紅月
目的などなかった
最寄りの寂れた無人駅から
たまたま通りすがった赤錆の列車に乗った
血の乾いた衣服はぼろぼろにほつれ
おそらく僕はひどく青ざめた顔をしていただろう
幸いにも乗客はほかにいなかった
スプリングの効かない紺色の座席に腰かけ
いまだ吹雪く氷の世界を車窓から覗いていた
ひどく叙情的な冬を超過して
雪解けの水辺に列車は留まる
対話という未明に操られるように僕は
いつのまにか棘蔦に呑まれた
きしむ列車を降りリュウキンカの丘をくだってゆく
(こんじきに影がはしる、)
草笛を鳴らしながら裸のミュゼ
たわむれに名前を呼んでみせる
(まだ、ここではない、という)
[次のページ]
戻る 編 削 Point(6)