dialog/紅月
 
目的などなかった
最寄りの寂れた無人駅から
たまたま通りすがった赤錆の列車に乗った
血の乾いた衣服はぼろぼろにほつれ
おそらく僕はひどく青ざめた顔をしていただろう
幸いにも乗客はほかにいなかった
スプリングの効かない紺色の座席に腰かけ
いまだ吹雪く氷の世界を車窓から覗いていた


ひどく叙情的な冬を超過して
雪解けの水辺に列車は留まる
対話という未明に操られるように僕は
いつのまにか棘蔦に呑まれた
きしむ列車を降りリュウキンカの丘をくだってゆく
(こんじきに影がはしる、)
草笛を鳴らしながら裸のミュゼ
たわむれに名前を呼んでみせる
(まだ、ここではない、という)
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