こおろぎ/そらの珊瑚
を
まるで本能で知っているかのように
窓を開けて
にぎった手のひらをそっと開く
ためらいとも取れなくはない
ほんの少しの躊躇のあと
やはりこおろぎは無鉄砲に跳躍していった
どこに着地するのか
こおろぎには確かめようもないのだろう
はなから確かめようなどという気はなく
ただ生きているから
はねてみる
しょせん重力からは
逃げられないにしても
今直面している災厄からは逃げられた
もう戻ってくるなよ
ここはおまえが唄うには狭すぎる
こおろぎが去っていった暗闇からは
もはや秋の匂いがしていた
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