「飽和する」/ベンジャミン
 
「おかあさん あの人 飽和してるよ」と
小学生くらいの子が僕を見ている

「大人になると 何人かは ああなるのよ」と
お母さんが僕のほうを見て子供に説明している

    ※

胸の奥がギュッと痛くなって
とても苦しくて悲しい気持ちになって

泣きたいくらいの感情がこみ上げているのに

けれど僕はすでに飽和しているので
そのための水分を持っていない

    ※

「おかあさん あの人 かわいそうだね」と
小学生くらいの子が僕を見ている

「あまり見ちゃいけませんよ」と
お母さんが子供の手をひいて歩きだす

    ※

そんな会話が成立してしまうこと自体
すでにいろいろと飽和している

懸命に生きることの境目で

普通という言葉の張力に
ただ身をまかせているだけではいけない
  
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