ピエタ/紅月
 
浮力、すなわち重力に隷従する「ゆぐど
らしる」の髪は空へと茂りつづける、こうして物語るあいだにもこ
の街には長い雨がやまない、器は充たされているのに溢れだした水
はどこに留まるというのか、文明の名残である酸性の雨が水面を穿
つ音すら響かないがらんどうのしじまの奥に「ゆぐどらしる」であ
る、ありつづけるあなたを世界樹たらしめるもの、かつて教会と呼
ばれていたはずのほころんだ遺跡にてほほえみを絶やさぬなんらか
の女神の像の、marbleによる肌はどこまでもやわらかな乳白色をし
ていたのに、しだいに象ることを放棄してかんたんな球のかたちに
かわってゆく、黒ずんでゆく、




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