不安不安/……とある蛙
 
歯二本欠けたその相貌には
恨みの欠片。

ビルの隙間の壁に寄り掛かって
空き缶回収の銭で焼酎を飲む浮浪者(はぐれもの)
恨み辛みをぶつぶつ呟くだけでなく
通りがかりの若い男女に大声で絡んでいる。
だが物狂いした老人は
若男女には目もくれず
おぼつかない足取り
で素っ頓狂な声を発して
彷徨う。

モーゼのように彼の進む方向は
人並みが真っ二つに分かれ

爺さん大声を出して
何を言いたいんだ

老人は突然の問いかけに
後退りしながら
疑わしげな眼を向ける
何も言いたい訳では無いのだ
彼は漠然と不安なのだ

老人の吸っている空気が
老人の歩いている地べ
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