貯金の音 /服部 剛
のだった
(うおぉ)
決して、決して、声には出せず
私は心の中でのみ、叫んだ
つい先ほど名言を呟いた、この私が
まさか後からドリンクチケットを渡し
お金を返してもらうことなど・・・
いつもならするが
ちょっと粋な会話をしたゆえに
できぬ、断じてできぬ
ライブはもはや佳境に入り
金髪のマスターがギターを抱え
お気に入りのエルビス・コステロを歌う頃――
私は詩友の欣ちゃんと店員のかれんちゃんに
「今日はちょっと早めに――」とさりげなく言い残し
マスターのコステロをBGMに
錆びれた味わいの階段を下りてゆくのであった
(650円を貯金したのだ・・・)
繰り返し繰り返し、言い聞かせる
ちゃりーん
秘密の貯金箱の底に
650円の小銭等が
落ちる音を、いめーじしながら
ひきさかれそうな心のままに
夜の茅ヶ崎駅へと、私は歩くのだった
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