テレジアの花 /服部 剛
 
小さき花のテレジアは 
修道院の姉妹等の 
冷たい目線が心に刺さり 
獄中で鎖に繋がれた 
ジャンヌ・ダルクに自らを重ねる 

「風の家」に住む井上神父は 
老いた体に嘆きつつ 
在りし日の友が描いた 
「無力なイエス」に自らを重ね 
孤独なテレジアに自らを重ね 

終戦後にフランスへ渡る 
深夜の船の甲板で 
ひたすら祈った 
あの日の青年に身を重ね 
今・皺を刻んだ両手をあわせる 

(あっば、あっば、南無あっば・・・) 

老いた身に足枷(あしかせ)は重くとも 
瞳を閉じたこころの世界の上空から 
ゆっくりと雲間は開き 
地上から、空を仰ぐ 
あの白い花が  
ひとすじに自らを咲かせている 







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