雨音/中山 マキ
どうしてと聞かれることが苦手で
常に受け入れてきた。
他人を先頭に持ってきてしまう癖が
いつの間にか本能となって
軟体動物のように私の隣で呼吸しているから
薄桃色のシャープペンから出て来る
舌のような細い芯が嘘を吐く事を拒まないので
仮に明日私が死んでも
繰り返し続ける日記にさえ本音の私はいない。
描くことのない6月の雨が
今日を叩くように、歌を歌うように降る。
傘は跳ね、肩に跳ね、髪が濡れるのに
いつの間にかひっそりと
上手に土に還ってしまう。
それはまるで何もかもを知った世界が
痕跡を残さずに、何事にも抗わずに、
ただ消えて行く瞬間のようで
薄暗い部屋からそっと、窓の外に手を伸ばし
この身に染みていく雨を
私は暫く眺めていた
そんな存在に救われていた。
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