寝ぼけ瞼に張りついた詩/風呂奴
昨夜は、本を抱えたまま眠る人だった
活字は描いた
夢の中へ浸水するやいなや
なめらかな黒髪の毛先を
屈強な体躯の背中を
雨露でできた葉むらの中の
縦笛のようなフクロウの響き
カミナリの声量から
顔のない恋人たちの台詞を
夢の脚本を編纂するものが
いつまでたっても現れない
数珠つなぎのミュージアム
車窓の向こうを入り乱れる
街並と山並の具合で
出逢うすべての景色たちは
ひとりでしか見られない
脚本がない夢の舞台で
即興でライムする吟遊詩人のように
ちがう星空を聴かせてくれる
そんな「わたし」たちの
世界中のレム睡眠が
夜と昼間の天井に見下ろされながら
寝言を垂らす
よだれのように
夢から還ると
本のページはすべて透明になっていた
昨日の私は、本を抱えたまま
眠る人だった
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