MY LIFE AS A DOG/そらの珊瑚
 
犬の眼をじっと見つめていると
黒々としたその瞳から
哀しみだけが
滲んでくる

犬は
なぜ自分が犬であるかを
きっと知っている
遠い昔
野生を
人間の為に捨てた存在
自由よりも不自由である幸せを選んだのだ

人間が気紛れに
腹を撫でてくれる時間だけを
心待ちにしている
優しい牙を持つ生き物

雨の降る日も
嬉々として散歩へ出かけ
我慢していた排泄物を出し
入念に匂いを嗅ぎ回り
古雑巾の匂いを漂わせながら
帰宅する

バフッと吠えて
そろそろじゃないですか? と知らせる
おまえのことを
決して忘れていたわけじゃないんだよ
ほんとうは
犬になりたいくらいなんだから
おまえの瞳をじっと見つめる
あなたは犬にはなれませんと
見つめ返された
おまえは正直だね
ああ、
哀しみだけが
滲んでくる
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