ルノアールの少女 /服部 剛
 
ふと手にした一枚の紙切れに 
優れた画家のデッサンが浮かぶように 
鏡は少女の清らかな 
一瞬の微笑を映すだろう 

ほのかな灯(ともしび)のひかりの中に 
明け方の少女がひとり 
密かに息づく現実(うつつ)の顔は 
ルノアールの絵になる 

その瞳は暖炉の炎が 
しだいに煤(すす)け、燃え尽きてゆくのを 
いつまでもじっと、視ている 
生の視線、永久(とわ)に失われた生の視線よ。 

あぁ、まことの地上の喪失を 
一体誰が知るだろう? 
絶え間なく賛美する声音(こわね)を持って 
全体の中に生まれる詩情を歌う者の他に―― 



 ※この詩はリルケの「オルフォイスへのソネット」を
  異訳したものです。 




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