吉本隆明『芸術言語論』概説/石川敬大
 
 二〇〇八年七月一九日、昭和女子大学人見記念講堂に於いて八三歳の吉本が「自分がしてきた仕事が全部ひとつにつながるということを話してみたいんです」と希望して実現したのがこの講演会であり、至極当然のごとく「言語について」をテーマとして、タイトルを『芸術言語論』としたそのことは、吉本が没したいま、彼の生涯を俯瞰し概説するとき、とても象徴的な選択であったように思う。

 戦時中、主戦主義者であった青年・吉本が、敗戦時の価値観が転覆する世相のなかで「世界を把握する方法をもてなかったら生きてく甲斐がない」、「わたしに足りなかったものがなにかと(略)考えぬ」き、「世界を知る方法として」選んだのがアダム・スミ
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