詩人の目薬 /服部 剛
 
鞄から引っ張り出したノートの角が 
勢いあまって目に入り 
白目に赤い線がひとすじ入った 

思わず両手で片目を抑え 
あいたたたたた・・・とうずくまり 
まったくついてねぇや、と目医者に行った 

想定外の出費でもらった 
目薬に「よく振って下さい」とあり 
しゃかしゃかしゃかしゃか 
ばーてんだーなりきって 
天を仰いだ瞳には 
透明の滴をぽたり、と落とす 

机の上には 
風に吹かれてこちらをみつめる 
賢治さんが表紙の本があり 
それを枕に転寝(うたたね)をする 

  * 

そこはどうやら 
いーはとーぶにあるBarで 
カウンターの中に立つ 
蝶ネクタイの賢治さんは 
琥珀の酒をぐらすにそそぎ 
僕に一杯、手渡した 

(きみ、さっきの目薬をさすとね、 
 なんでも詩に視えてくるらしいよ・・・) 

  * 

不思議にぬくもる声の木霊(こだま)に、目が覚めた。 
顔をあげ、机に置かれた本の表紙から 
いーはとーぶに吹き渡る風の音(ね)が聴こえた 







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