夢の電車 /服部 剛
 
五年程前に、上のの美術館で見た 
山下清の描く「地下鉄銀座線」   

暗い線路のトンネルに 
あたらしい昭和のライトを灯して 
完成したばかりのホームに 
ゆっくりと入ってきた 

平成二十四年の都営新宿線に乗る僕は
ドアに凭れて、背後にもやもやした 
煙のような重荷を背負う人々を眺めている 

日本で初めての地下鉄に乗った頃は 
遊園地よりも夢のひと時だったろう 

夢の電車は今、時代の闇を抜けられぬまま 
トンネルにがたごと輪音を響かせている  

もし(詩情の目)を開く時 
すぐ目の前の場面から 
あたらしいものは 
こちらにサインを贈っている 







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