時計のない部屋/……とある蛙
 

玄関扉を開けると
部屋のドアノブが鼻先に突き出され
二枚のドアがずれていて押しても引いても開かない
斧でたたき割った孔を屈んで
部屋に侵入

掛け時計と窓のある景色
窓の外に広がる夕暮れの丘に
ポツリと一羽の鶏が鳴く
時計の長と短針の狭間に
発条仕掛けの鍵穴が
盛大に時を告げ
微動だにしない長針の裏を
短針が正確に左旋回する。
秒針は慌しく4と5の間を行き来し
ゆったりとした夕日の時を刻む

窓の外はいつまで立っても日が没しないが
赤く染まった峻厳な岩山は
言葉を発することの無い
虹色の虎に守られて
時の季節を過ごしている

目的地ではないことは明白で
窓を這いだし
麓に向かって歩く
自分の足取りは確かだが
先行き不明
だが、不安も不満もない。
こんなものだ。
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