春 いつもの散歩道にて/浅香 葉菜
あの日鳴らなかったケータイは
その2週間後、
街を流れる雪解け水の小さな川に流されました
あの日買ったお気に入りのブランドの手袋は
4年の歳月を経て人差し指に穴が空き
ついに、その役割を終えました
今ではもう
あの日着ていた白のコートも
ベージュのスカートも
私の家にはありません
いちいち気にしていたわけではないけれど
ふと、
ポケットに左手を入れるくせがなくなったことに気が付いて
あの曲を口ずさむ回数がめっきり減ったことに気が付いて
済し崩しに思い出されたのです
あの日はっきりと思い知らされた
あなたの気持ちを
恨むことなどなかったけれど
思い
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