さそり座の女との遭遇 /服部 剛
 
今、神保町の珈琲店・さぼうるで 
赤煉瓦の壁の地下にある席で 
珈琲をすする僕の目線の先の1階では 
美川憲一・はるな愛・ノブシコブシの吉村さんが 
おいしいナポリタンをフォークで 
すくってしゅわっと湯気が昇っている 

さきほど隣のテーブルの女の子が 
「あ!美川憲一だ」と言うや否や 
店内の客の目線の先が一つになり 

咄嗟に鞄に、手を突っ込んだ僕は、自分の書いた  
「あたらしい太陽」という本を取り出し、立ち上がり 
地下と1階の壁のすき間から 
右手をめいっぱい伸ばす 

「あの、これ、さそり座の男が書いた本です」 

「あらぁ、ありがとう 
 愛ち
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