辺見庸『眼の海』を読む/石川敬大
 
ばならなかったのかといえば、辺見が書いた詩文のスタイルがもつ始源性や根源性の渦が、作者があずかり知ることか知らずか詩史と詩の現状に対して異を唱え、あるいは棹さすように出現したように思えたからだ。前詩集の『詩文集 生首』(毎日新聞社)は、まさしく痛快にして激烈にそうであった。詩の素人であると自ら卑下するかのようにタイトルに「詩文集」の文字を入れた姿勢もさることながら、詩の世界に精通する詩賞の選考委員である詩人たちを驚かせまた面白がらせ、著名な詩人の名を冠する賞を贈呈するシーンが詩史上において演じられることになったのも、その渦がもつ力が及ぼした衝撃の大きさを証するものであった。

 詩史と詩の現状
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