【 月の棺 ?ツキノヒツギ? 】/泡沫恋歌
 



月の光が燦ざめく
まだ春浅き夜更けのこと
女が独りで死にました
誰にもみとられず
たった独りで息絶えて
時計の針は零時で止まったままに

女は苦しまずに
うっすらと頬笑みを浮かべて
まことに まことに
静かな夜でございます

蒼白い唇には
紅いルージュを塗りましょう
細い頸には
銀のクロスの首飾りをかけて
冷たくなった躯を
黒いサテンのドレスで覆ってください

心に滲み込んだ執着は
すべて地上に捨てていくです
けれど女の蝸牛の奥の方には
むかし愛した男の
優しい声が残っていたから
哀しみも抱いてゆきま
[次のページ]
戻る   Point(14)