波打つ草原/杉菜 晃
 
◇小魚

雨の後は
小川の土手が増水し
小魚たちの遊戯場になっている

水圧に押されて
寝てしまった青草を
小魚がしきりにつついて
運び去ろうとする

一本の草とて
そうはさせじと
土手にへばりついている

ついに小魚たちは散る
母なる川へと
水をかぶった土手に
きらめく一時の夢を残し


◇波打つ草原

都会生活から
一時避難の青年が
故郷の草原に立つ
ススキの穂が
青年の髭面を
しなやかに撫でる
すでに母なき里に
平凡に揺れるだけで
母の役目を果たしている
故郷の草原


◇山百合

ハイカーたちの
立ち去ったあとには
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