奈良にいる頃/天野茂典
君と山登りしたことがある
君は全財産を捨てて 上京したのだった
ことの起こりはぼくが鉛筆で君にラブレターを書いたからだった
おそらく君は 結婚を前提にしてぼくのところへやってきたのだと思う
彼女はギター教室に通い 暇をみてはぼくの家の店を手伝ってくれた
彼女は詩人であり また落研の人気者でもあった
いわゆる高嶺の花っだった
彼女は立川に下宿した 毎日家に遊びに来ていた
ギター教室はぼくの家の店のまえにあった
(うろたえていたのはぼくだった
実際彼女を目の前にして
ぼくが抱いていた
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