消えた電池のこと/はるな
 
もう、終わりだよ。」声をひそめてそう言った。
「あそこらへん、友だちのうちだった。いや、あっちかな?いや、もう、わからないな。」と夫。
そのあと衣料店で夫の後輩と偶然立ち合い、話していたようだ。どうだった、彼女は、大丈夫なの?と、あとになって聞くと、いや、駄目だったらしい。と。でも、彼女は笑顔で話していた。「家族で死んだひとはいなかったって。」
死んだひとがいない。ということが、特別なことだったのだろうか?何もいえなかった。

わたし自身が、見たり聞いたことは、砂浜のなかの一粒の砂のようなことで、それが何万人ぶんもあるということを、考える。
夫の故郷が違っていれば、わたしはこんなに考え
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