たまの春/石川敬大
耳をすますときは
手と足が
とまる
だれにしたって表情が凝固して
仮面になる
手配写真のようにだ
音がするほうに
むける
意識を
ひと足踏みだす
ヒゲがアンテナになってキャッチする
かどうか
ぼくは知らないが
猫のたまがそうであるなら
ぼくだって似たようなものだろう
音もなくやってくるものが
這いだしてくるものが
季節だろうが
けな気で
か弱いものだろうが
率直
ぼくは嬉しい
無数に絡みあった
糸電話の
関係を断って
半透明な空きビンになってしまいたい
ぼくは
空きビンになって空を写し
道ばたにコロンと寝っ転がって
春に
耳をすませたい
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