イーハトーヴの国 /服部 剛
 
生まれ育った故郷の林が大好きな 
賢治の妹トシは額に汗を滴らせ 
まぶたの裏に 
この世という牧場の出口で 
風に開いてゆく、木の扉を視ていた 

息を切らして、家に戻った賢治が 
震える指で、ましろい指に渡す 
二本でひとつの、松の針。 

うれしそうに受け取った 
緑の針で頬を撫でれば 
トシの寝顔は 
一瞬火照った、幼子になり 

ましろい指からふと、落ちて 
枕に置かれた、松の針。 

細い寝息で夢見るトシは 
くらかけ山の麓に広がる草原に、独り立ち 
ひとつひとつの草々が 
遥かなる永劫(カルパ)の風にめらめら踊り 
透き通ってゆく全ての景色の背後から 
イーハトーヴの国が
あらわれる 







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