さまよう針/そらの珊瑚
針を数えたか、と
父が言う
裁縫は針を数えることから始まって
針を数えて終わるんだと
わかったようなことを言う
自分では
ボタンひとつかがらないくせに
もしも
針がどこかに落っこちたままで
ひょんなことから
身体のどこかから入って
血管に入ったら最後
心臓に突き刺さったら
死んでしまうと
脅かす
小学生だった私は
半信半疑だったけれど
ありえない話ではないな
と思った
もしかして
既に針は私の身体のどこかに
もぐりこんでいて
血管の中をさまよっているのではないかと
夢想した
それは
おそろしい光景だったが
心臓に針が刺さる瞬間を
息
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