原子心母/天野茂典
 
   

   干された布団に冬の陽が
   いっぱいにあたっている
   ここは天の香具山ではないが
   まぶしいくらいだ 女でなくても
   洗濯物は 気持ちよく見える
   太陽の光を いっぱい吸収するからだ
   ほかほかほかほかほかほかほかほかほか
   温もるのだ 優しい感触だ
   風は凛ときびしいのだが
   音楽のようになっている
   マイ・フェイバリット・シングス
   三輪そうめん 平城山(ならやま)に恋人は泣き
   オート・三輪車にゆられてゆく
   干された布団に冬の陽が
   陽炎のようにあたっている
   すべては夢の中の夢 遠景に過ぎない

   ぼくらはどこから来てどこへ行くのか
   科学者にも分からない
   隙間だらけの人間 だから
   布団を干して 太陽の考えを測るのだ
   原子心母*マッコイ・タイナーの演奏を
   聴きながら 布団の中に飛び込むのだ




        *ピンク・フロイドの曲名
         2004・12・01
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