向日葵の夢 /服部 剛
昭和5年の夏、関西のとある町にて
縁側に横たわり昼寝する
少年が目覚めた頃、母親は
まっ赤に濡れた西瓜(すいか)を
お盆に乗せて、持ってきた
庭に立つ一輪の向日葵(ひまわり)は
西瓜をかじる少年に
いつまでも微笑んでいた
そんな夏休みの幸福なひと時を綴る
「微笑について」という本を
平成24年の冬、東京のとある古本屋で
僕は偶然、手に取った
その作家は、すでに世を去って久しい。
その古本を読んだ人の行方は、誰も知らない。
それからというもの
私のこころの風景に
ずっと消えずに咲いている
あの、夏休みの向日葵
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