姉の魔法/mizunomadoka
わたしが泣き出すと
姉は自分の手のひらにエノキさんを描いて
「もう泣きやみな」と言った
エノキさんは森の木こりだった
中学にあがったとき
両手にマニキュアを塗ってくれた
わたしは水色のツメを何時間もながめては
その美しさにため息をついた
学校に仮病の電話をして
車の運転を教えてくれた
お弁当を作って、布団をつんで
「今日が命日〜今日が命日〜♪」と歌いながら
太平洋までドライブした
高校を卒業すると
宇宙船のチケットを買うために
わたしはひとり暮らしを始めた
最後の夕食のときケーキを頬張る姉が
とても愛おしかった
災害のあとで
姉がわたしの母親だったことを知った
「隠さなくてもよかったのにね」
手のひらに正方形を描くと
エノキさんが現れて
「もう泣きやみな」と言った
エノキさんは森の木こりだった
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