ベートーヴェンの夢 /服部 剛
深夜3時にむっくり起きた僕は
スタンドの灯り一つの部屋で
西田幾多郎が純粋経験を語る
「善の研究」の本を開いていた
(純粋経験の瞬間は、
いつも単純な一事実である
音楽家が熟練の曲を奏でる如く・・・)
深夜の部屋に流れるピアノ曲は語りかける
布団を被って寝息をたてる妻と子の
子守唄のように
今宵、瞬く星々の間に
置かれた椅子に座る
在りし日のベートーヴェンは
銀河の流れと呼応して
鍵盤にまぼろしの指を躍らせ・・・
宇宙の奏でる密かなシンフォニーは
眠れる妻と子の夢に鳴り響く
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