さまよう鬼/そらの珊瑚
こわいよ、おかあさん、おにがおいかけてくるよ
またこわいゆめをみたのね
だいじょうぶよ、おかあさんがそばにいるわ
◇
小さな灯によって
浮かび上がったその影に
ふたつの角があることを子はまだ気づいてはいない
ほんとうの鬼は
夢のなかに棲んでいるのではなく
現実のなかに棲んでいることをまだ知らない
◇
わたくしのことをお知りになりたいのですか?
今はこんな姿に成り果ててしまいましたが
もとはおひいさま、と呼ばれていた時代もあったのです。
南蛮渡来の金糸雀とともに唄い
螺鈿細工の小箱のなかに
美しい日々の栞をおさめては
眺め愛でていたもので
[次のページ]
戻る 編 削 Point(3)