もう一人の私 /服部 剛
自らの意思に反して
もう一人の私が
何処か遠くへ歩いてゆき
おーい、と呼んでも聞こえない
永遠に列車の来ない
線路の上を歩いていたら
地に伸びる私の影が、口を開き
耳傾けても、何を言うのか聞こえない
*
私という体は
一軒の建物のように
世の北風に震えながらも
土の下深くに柱の足を入れて立つ
どうやら私は今迄ずっと
ほんとうの声を探してきたようだ
ようやく聞こえてきたのは
言葉ではなかった
偽りのない私という建物の
内なる小さい部屋に
今にもいのちを解き放とうと
膝を抱えて充電している
黒い人影の震えが、時折
びくりと
この胸に疼くのだ
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