『枠のなか』/あおい満月
 
今はもう忘れてしまったけれど
たったひとつ、
おぼえているものがあるとするなら
朝の理科室で
フラスコに入れた無色透明な液体に映った
陽の窓辺

あのころのわたしは、
いつもフラスコの中だった
現実からオブラートに包まれて
危を知らない子どもだった

水槽のなかのさかなのように
大きな枠のなかの小さな内側で
ぼんやり空を見ていた
ときどきなきながら

おとなになった今でさえ
大きな枠のなかの小さな内側にいる
わたしには、
見えない札が掛けられている

誰も気づかず
何となくふりむいて



                     二〇一二年二月九日(木)
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