【 詩的恋愛論 】/泡沫恋歌
 
して欲しい――男に望むのは、ただ、それだけ。
「恋愛」はチューインガムみたいに甘い時に噛んで、味が無くなったら吐き棄てればいい。――それでいいんだ。
 そう黎子の心の中で結論付けた時、手に持っていた携帯がチカチカ点滅して鳴り出した、それはメールの着信音だった。
 画面を開くと先ほどの男から、

 『黎子愛している』

 ――気恥かしい言葉が書いてある。

 さっき電話を切る時、黎子の声が不機嫌そうだったので、それを気にしてリップサービスのようだが、彼なりに女に対する執着があるのだろう。
 わざわざ嘘を上書きしてきた、そんな男のけなげさが可愛いと笑みが零れた。また、そのメールを『保存』する黎子もまた愚かな女に違いない。

 男の精一杯の嘘を疑うのはもう止めよう。死ぬまでバレない嘘を男がついてくれるなら、黎子もまた死ぬまで騙された振りをしていたい――嘘でも信じ続けていれば、それは真実に近づくだろう。

 ――それこそが至上の愛だと、そう黎子は思った。


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