すべてが思い出になったあとで/はるな
 
はそれらの思い出に関するかなしみを、もう思い出すことができない。それらは終わってしまったことなのだ。「箱の中」に。

そのようなものが増えていく。

おそろしいことだ。この穏やかさに埋もれて、いつかは―そう遠くないいつかは―完全に満ち足りてしまうのじゃないか。
おそろしいことだ。望むと望まざるに関わらず―あらゆるものの可能性と不可能性の平等に甘んじて―わたしはもう満ち足りてしまうのじゃないか。戦わなくなってしまうのじゃないか。泳ぐのをやめてしまうのじゃないか。

それのなにがおそろしいかって
そのとき―泳ぐのをやめたとき―わたしはわたしが、泳ぐのをやめてしまったのだということさえ、きっと、認識しなくなっているだろうから。


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