帰郷/aria28thmoon
 
彼はいつも、
「ものを『見る』ということは、心のなかの水たまりにそのものを映すことなんだ。鏡じゃなくて水たまりだから、風が吹いたり雨つぶが落ちたりすると、きちんと映らなくなってしまうんだよ。『見る』ためには心をしずかにしていなければならないんだ。」
と言ってわたしを諭しました。なんだか難しく聞こえる言葉なのですが、わたしは何となく感覚でそれを理解しておりました。
恐らく今のわたしの心には風や雨つぶどころではない、春の嵐が吹き荒れているようですから、観月さんに会えばまた昔のように教え諭されてしまうことでしょう。

さて、話を戻しましょうか。
それは12になる年の春のことです。
いつもの
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