帰郷/aria28thmoon
 
ながらも、わかっていたよ、と小さくつぶやきました。
「……そう、わかっていた。君はいつかはここを離れて、もっともっと広い世界へ羽ばたくひとだということ。そして――」
言いかけてこちらを見る表情は、微笑みと微苦笑の中間のような。
 
「そのときが、そう遠くはないということ」
 
――言い終えると彼はそっとすぐ側のイーゼルに手をかけ、立て掛けられていたキャンバスをわたしに差し出しました。
「……遠く広い世界へと、旅立ってゆく君へ」
 
その3号ほどの小さなキャンバスには、美しい翼を持った少女が微笑みをたたえていました。
その少女がわたしであることは、わたしには一目でわかりました。
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