白象のいた港(掌編小説)/そらの珊瑚
 
子さまを背中に乗せて、寺院の美しい庭を散歩したものだった。

 二人が日本の地を再び踏むことはなかった。
 
 二人のことを思い出すと、なぜだか、あの「おるげる」の音が聴こえてくるんだ。夢のようにきれいな音がね。あの「おるげる」お絹ちゃんは持っていったのだろうか。そして遠いシャムの地で耳に押し当て、その音を二人して聴いているだろうか。

 ぼくはそれからも、この港で天寿を全うするまで働いた。

 ぼくの長い鼻は今では堤防となり、「象の鼻公園」と呼ばれている。横浜に行くことがあったら、是非遊びに来てね。 別名はつこひ港だよ。

             おわり


※このお話はフィクションですが、横浜に象の鼻公園は実在します。

※その後、関東大震災でこの辺は瓦礫の山となったそうです。
 その瓦礫を埋め立て、土をかけて造成し、山下公園が出来たそうです。
 瓦礫の上に立つ公園。
 大災害から見事に復興した象徴、といえるのではないか、そんな風に思います。
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