「……とある蛙」に捧げる/……とある蛙
四年ほど前から付き合いのあるこの男は、不思議なことに何も教えた記憶はないのだが、俺の昔をよく知っている。一日のうち五,六度、俺の前に顔を出し、あるときは俺の読んだ本や詩を酷評し、あるときは俺の書いた詩を嘲り笑い、あるときは俺の恥ずかしい過去を詩にして世間に晒し者にする。他方、あるときは俺の仕事を手助けする振りをし、あるときは俺の仕事の足を引っ張る。あいつの知り合いは意外に多いようで、名前だけは知っているという人間も含めると結構な人数になるようだ。仕事以外の会合では全てあいつがしゃしゃり出て、俺を含めて仕切りたがる。特に俺がアルコールを浴びているときは自制無く独壇場で俺と人との関係を悪化させようとする。俺は他人を仕切るのが大嫌いなのだが、また、他人を仕切る人間は偉そうで大嫌いなのだが奴が現れて俺が寝ていると偉そうに他人を仕切出す。
ところが、この年になっても軸足のない俺の脇を支えているのは実はあいつではないかと最近思うようになっている。だから抹殺しようにも抹殺できずに付き合うしかないと最近諦めている俺なのだ。
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