折り鶴/そらの珊瑚
昭和二十年八月六日午前八時十五分
ヒロシマは地獄と化した
おなかのなかで泳いでいた名もない 胎児
三輪車に乗って遊んでいた あやちゃん
竹の物干し竿に洗濯ものを広げていた 母さん
アルマイトの弁当箱を持って
路面電車に揺られていた 父さん
ランニング姿で学校へ走って行った いがぐり頭のかず君
元安川でつりをしていた 定吉さん
廣島駅で恋人の出征を見送っていた 松子さん
たくさんの
かけがえのない命が生きたまま焼かれた
たくさんの人が
願っても叶わなかった「今日」を
私は生きている
縁あって
私は今 広島の地に住んでいる
時々 こうして鶴を折りながら
戻る 編 削 Point(9)