クロール/山中 烏流
 



急かすほどに緩まる手綱を
持て余しながら
黒目がちに揺らめく人々の波を掻いて
少女は
遠く、海を目指した





蹴り飛ばす買い物袋から、無精卵が弾け飛んで
方々に散る殻を
嗚咽の波が浚っていく

目を塞ぐ手を掻い潜って
後に駆ける子供らの声を背に
少女は
最初の、息継ぎをする





言葉はどう足掻こうと言葉なのだから、
そう呟いた少年の
髪の毛を引き千切って
払い除けたのは右腕

初めての呼吸のように
耳を劈いた
その安堵の証拠を
握りつぶしたのは左腕





 
駆け抜けたゴールテープを繋ぎ直して
 持ち直す役目は、君たちに譲るよ


少女は
迫る壁を、蹴る







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