冬の道/そらの珊瑚
 

胸躍らせる小夜子ちゃん

誰も聞いてはいなけど
いただきますとつぶやくんだ
誰も見てはいないけど
そっと掌を合わせるんだ
今日はあんぱんだ
パンの端を少しだけ残して
ポケットにしのばせる

手袋を持たない
しもやけで赤黒くなった小さな手で
パンの端を僕の上にまいていく

しばらくすると
雀がやってきて
おしゃべりしながら
それをついばんでいく

小夜子ちゃんは
知っている
僕の孤独を知っている
雀の空腹を知っている
たったひとかけらのパンくずが
孤独と空腹を同時に癒すことを知っている
自分がどうして自分であるのかを
悲しんでみたって仕様のないことを知っている

午後に
僕はぬかるんでぐちゃぐちゃの
それは見事な泥になった
心はほのかに温かい

寒くなれ
凍って凍って
再び僕になれ

そして踏まれてやれ
ザクザクと


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