はぶさん /服部 剛
はぶさんは、いつも
ぺっぺっと唾を吐く
所構わずトイレになる
介助しようと抱きかかえれば
細い手足で、殴る、蹴る
そんなはぶさんの細枝のような体が
実は末期癌に蝕まれていながら
痛みさえも忘れ果て
寝たきりの病人にもならず
一日、車椅子に座っている
「認知症」と診断されても
細い木の体に宿って
ぼぉ
と燃えるいのちの炎
ほら、油断すると
あごの下から小さい拳が、飛んでくる
危うく顔を避けた次の瞬間
「あたくしのおうちはどこお?」
ふにゃりと笑って、僕に聞く
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