カニ食べに行こうー/あおば
のだと
朱房の十手が
観念したかというようにがっちりと刀身を抑え付ける
後ずさりしながら楽屋裏から逃げ出したこそ泥は
コバンザメの半七と呼ばれているが
その頃はただの半七と呼び捨てられて
冷や飯に水を掛けては呑み込むようにかっ喰らい
米の飯とお天道様だけはついて回ると信じていた
出世して今ではコバンザメと綽名され
大身のお武家様の屋敷を伺うのが日課となっている
奥向きの腰元衆に黄表紙をそっと差し出しては
平然と盗んだ簪やツゲの櫛を売りさばく
盗品なのは内緒なのは言うまでもないが
黄表紙に夢中の腰元衆は
二次元の世界に遊ぶのに馴れているから
重さのある物質には頓着しない
お財布の中身と釣り合うかなどとも思わない
旬の蟹食べに行こうなどとは
口が裂けても言わないはずだと
とっときの榧の油でコロッケを揚げながら
腰元衆に気に入られるように身を細かく解し
頬張りやすいよう苦心をこらしている
「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作 タイトルは、エイジさん
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