ボクのマスターベーション(3)/花形新次
 
んなに冷淡ではなくて、ちゃんと迎え入れてくれる人がいる。そしてそんなことを繰り返して日々過ごしているんだと。
 タオルを外し、上体を起こされ、鏡に映った僕の目は真っ赤だった。

 支払いをする際、レジに立った女性に言ってみた。「いつも、息子がお世話になっています。」
 女性は「えっ。」と少し驚いた様子だった。僕が息子のことを話すと、直ぐに分かったようで、「ああ、あの子のお父さんなんですか。」と言った。
 「いつも、ご迷惑をお掛けしていると思います。」と頭を下げると、「いいえ、すごく大人しくて、良い子なんですよ。」とニッコリ笑った。
 女性は、男性に向かって、「ほら、あの子のお父さんですって。」と言うと、男性は「いつも、ありがとうございます。」と、こちらも微笑んで言った。
 僕は、二人に、「これからも息子をよろしくお願いします。」ともう一度頭を下げた。
 ふたりは「こちらこそ。」と言って、やっぱり頭を下げた。

 ドアを開けると、12月の冷たい空気に、カランコロンがいつもより綺麗に響いた。 

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