縁の糸 ー法然と親鸞展にてー /服部 剛
数珠を手に坐る
法然と親鸞は
21世紀の上野の美術館内に
少し離れて向き合っていた
親鸞像の瞳は、無言で
(この数珠を見よ・・・)と呟き
両手の間で輪になる数珠を見ているうちに
私の胸に「和」という文字が
滲んで刻印されてゆく
法然像の背後に吊られた
薄い布に透けている
後ろ姿から漂う
不思議な安堵感に私は
(ついてゆきたい・・・)と呟く
師弟のふたりを見つめた後
ガラスの内側に置かれていたのは
親鸞84歳にして3ヶ月で書き上げた
「法然の言葉」を直筆で綴る厚い一冊の本
首から紐でぶら下げた音声ガイドは
ヘッドフォンで塞いだ私の耳に古(いにしえ)の物語を語り
21世紀の上野の美術館内で
互いに向き合い坐るふたりの
永遠(とわ)に消えない縁(えにし)の糸が視えた
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