頭痛/根岸 薫
 
えて
祖母の入れ歯が鳴りわたる霊安室

「ご利用ありがとうございました」

孤独ないもうとはおしよせたことをあやまり
たのしい夏の腹筋ごっこ
妹「得意な教科は歴史なのよ」
(一同どよめく)

     「三週間も通いづめでおやおやハンケチはもっ
     たのかなあのとき財布のなかみだれもみてない
     のですからこのあいだ死んだ高校生に至っては
     汗なんかかいているし近所の米研いでいたとき
     から頭痛がひどくて先生、MRIって一体何だ
     ったんでしょうお歳暮のこともわたくしちっと
     もわからないものですからどうにかオリンピッ
     クまでこぎつけたことですしいえほんとにもう
     ひきよせて下さい先生、この頭痛あしたまでに
     なんとかなりませんかねえ」

そのとき
玉突き屋の青顔ボーイが
「当た―――り―――」

(小声で)「しかしまあ、ひどい顔色ですな」
(同じく小声で)「いや、まったく」







      (現代詩手帖読者投稿欄掲載作品)



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