炎/草野春心
 


  朝の町は
  赤く輝いている
  透明な蝶が群を成して
  燐粉を煌めかせ舞い飛ぶ
  駅へと続くなだらかな坂道
  冬空に灰色の息を吐き
  自販機でコーヒーを買う人



  夜、
  僕が眠っている間
  この町は一度燃えてしまった
  暗闇に炎を揺らめかせ
  細かな灰へと姿を変えて
  妖艶な踊りを踊りつづけた
  それから、再び
  ひとつずつ家が組まれ
  人びとは暖かな毛布の下に
  そっと、優しく置きなおされ



  殆ど同じ場所に
  殆ど同じ形で
  僕たちは目覚めを与えられた
  朝の町は赤く輝く
  蝶の花びら舞う道に
  きみの声がふわりと微笑む
  足音が、愛とかなしみを歌う
  それは小さな炎のように
  何度でも
  僕の心を燃えあがらせる




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