田村隆一論??フィクションの危険/葉leaf
一本
床に落ちてもひびくような
夕暮がある
卓上のウィスキーグラスが割れ
おびただしい過去の
引出しから
見知らぬカード
不可解な記号
行方不明になってしまった心の
ノートがあらわれてくる
(「恐怖の研究」)
確かに「針一本床に落ちても響くような夕暮」はあるかもしれない。これは全くのノンフィクションかもしれない。だが、「過去の引出し」とは、「心のノート」とは、いったい実在のどんな対象を指示しているのだろうか。そもそも実在の何も指示していないのではないだろうか。また、何の原因もなく卓上のウィスキーグラスが割れるなんてことは考えられず、その記述は現実と対応しない
[次のページ]
戻る 編 削 Point(4)