ロマネスクの果て/済谷川蛍
 
かった。
 「僕は両親と同じ医者を目指していました。人々を助けたかったからです。けれど軽いノイローゼになってしまい、勉強が出来なくなってしまいました。ある日、両親に誘われて参加したこの大学が主催する医学と仏教のシンポジウムでの講演に大変感動し、仏教やスピリチュアルケアというものに興味を持ちました」
 野村くんは自己紹介を終えて礼をしようと頭を下げようとしたが、何かに気づいたように慌てて顔をあげてこう言った。
 「ちなみに僕が好きな作家はミヒャエル・エンデです」
 そうして確かに野村くんは僕の目を見て笑った。僕はその瞬間の喜びを一生忘れることがないだろう。
 僕はよく昼休みを日当たりのいい
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