閉所恐怖症の猫/そらの珊瑚
 
からって
ずいぶんロマンチストな男だった

「今日は何が食べたい?」
「駅前の美濃屋の焼き鳥! もちろん塩でね」
男はおまけにベジタリアンだったから
自分では食べずに
あたしが食べるのを楽しそうに見てたっけ

そのうち
男の愛で満たされていく部屋が息苦しくなって
あたしはそこを飛び出した
だってあたしは閉所恐怖症
愛なんて小さな箱で暮らすなんてまっぴら!

婚姻届けを長い爪でビリビリに引き裂いた

今でも
男がつけた
ペンダントの鈴が
チリリと鳴るけど

あたしは閉所恐怖症
愛なんて小さな箱で暮らすなんてまっぴら!

でも名前が無いのは
さみしいから
次の飼い主を探すのさ

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